:長距離戦線における勢力図の現在




個性などというものは、はじめは醜い、ぶざまな恰好をしているものだ。 三島由紀夫『生徒を心服させるだけの腕力を』


 長距離戦線を牽引してきたメイショウサムソンが引退し、また、ウォッカをはじめ、ダイワスカーレットディープスカイマツリダゴッホらは3200mというタイプじゃないから、長距離戦線は一気に混迷の様子を呈してきた。現状では菊花賞馬、オウケンブルースリが最右翼であるが、その他が続かない。JC馬スクリーンヒーローもまた、現状では中距離色の強い馬である。今日は今後の長距離戦線を考えていきたい。





 長距離戦線が混沌としてくると、天皇賞が荒れるのは当然のことである。マンハッタンカフェ以後、ディープインパクト以前はまさに長距離戦線混迷の時代であった。G1未勝利のリンカーンアイポッパーダイタクバートラムが1番人気になるという、いわば異常事態である。特に03年は混迷の極みに達し、ダイタクバートラムの他に、2番人気は後に安田記念に勝つツルマルボーイ、3番人気に最弱世代の菊花賞2着で、その年の中山金杯の勝ち馬トーホウシデン、4番人気にこれまた菊花賞2着馬ファストタテヤマ、更には史上際弱のメンバーだった宝塚記念を勝ったダンツフレーム中京記念大阪杯など中距離戦線で頭角を現したタガノマイバッハである。後から考えると、3200mを走れるだけの馬がどれだけいただろう??ヒシミラクルが勝ったのは至極当然だったのかもしれない。翌年の05年は「4歳4強対決」呼ばれたリンカーンザッツザプレンティゼンノロブロイネオユニヴァースイングランディーレに逃げ切りを許すという、これまた異常事態。そして翌年もまた、スズカマンボの戴冠など、ディープインパクト登場までの3年間はまさしく長距離戦線空白の時期であった*1。先にも述べたように、今年の長距離戦線は03〜05年の状況に似ている。ということは、天皇賞にあっては強引な穴予想が通用しそうであるとも言える。ただ、そうはいうものの、やはり一定のセオリーはあるだろう。




 メンバーのレベルが下がると、多頭数になるのは何も天皇賞に限ったことではない。ただ、各陣営色気を出して、距離適正がない馬まで出走させる場合があるから注意したい。03年で言うと、ツルマルボーイダンツフレームタガノマイバッハあたりがそれ。いくら実績があっても、マイル周辺での実績であるから、信じるに値しない。一方、イングランディーレヒシミラクルサンライズジェガーに共通するのは、長距離に対する絶対的な自信と、それを裏付ける血統背景である。逆に言えば、メンバーが弱化した年は、それらさえあればG1での良走実績はいらない。





 今後、どのように勢力図が変わっていくかを注視していかなくてはならないが、昨年の菊花賞馬、オウケンブルースリが最右翼であることは間違いない。ジャパンC5着の内容は、菊花賞より前々で競馬し、より長い距離への対応を模索した陣営の努力が窺える。メジロブライトが追い込み一辺倒の競馬から、AJCC阪神大賞典といつでも進出できる位置を探った経緯と似ている。あとは本当にどんぐりの背比べのメンバーだ。フローテーションはスタミナに自信があるもののまだ重賞未勝利。ここにきて有馬記念2着のアドマイヤモナークが浮上してくる。天皇賞には3回挑戦したが、結果は伴わなかった。「空白の3年」とディープ、サムソンが勝った年のタイムを比較すると、単純に2〜3秒異なるので、この馬にとって不運だった。しかし、長距離に対する自信は絶対的なものがあるはず。今年のメンバーなら過去3回よりも少ない数字の着順が期待できそう。昨年の天皇賞5着で、金杯を制したアドマイヤフジは基本的に宝塚記念がベストだと思う。2番人気で9着に敗れた昨年の阪神大賞典を見る限り、明らかに長かった*2。昨年の1番人気のアサクサキングスは制裁を欠いている。そもそも、3200m対しての信頼度は高くない。以下現段階の想定メンバー。




 このメンバーだったら、デルタブルースポップロックメルボルンC組が再浮上してきてもおかしくない。


*1ヒシミラクルがいたのに「空白」というのはやや御幣があるが。

*2:まあ、本番で5着まで来ていると言えば来ているが。