:浅野いにお『虹が原ホログラフ』の研究ノート2



プロローグ1

  • 一匹の蝶が飛んでいる。背景は真っ白で、どこを飛んでいるのかはわからない。(a-1)
  • 双子の赤ん坊を俯瞰している。誕生まもなくであり、泣いている。(a-2)
  • 再び一匹の蝶。(a-3)
  • 開かれたノート。びっしりと文字と図が書かれている。(a-4)
  • トンネル、もしくは地下道と思われる先から「おーい」と誰かが呼んでいる。(a-5)
  • 二匹の蝶。(a-6)
  • 蝶の羽が3枚浮遊しているが、これまでの蝶の描写と異なり、背景に町並みが見える。空の様子から、明け方、または夕刻と判断できる。(a-7)
  • 頭のない犬か鹿......つまり哺乳動物と思われる動物が描かれているが、この時点で読者はこのコマの意味を理解することはできない。(a-8)
  • 一面の蝶の羽。(a-9)
  • 学校の校舎。少年が手を広げ、仰向けで落下していく。頭が読者のほうを向いており、表情は見えない。1つの窓が開いており、3人の女子生徒を確認することができる。ただし、それら女子生徒は、少年が落下していることには全く気づいていない。オノマトペとなく、非常に静的な印象を受ける。(a-10
問いA

  • 蝶の意味とは?
  • 双子の赤ん坊はは誰と誰のことか?
  • びっしり書かれたノートの内容はどういうものか?
  • トンネル、あるいは地下道で「おーい」と呼んでいるのは誰か?
  • 頭のない哺乳動物?は、作品の中でどういう意味を示しているか?
  • 学校の校舎から落下している少年は誰か?


  • 眼鏡をかけた髪の毛の長い青年の横顔。(b-1)
  • 壮年の男性がベッドで寝ており、点滴を受けている。その様子を見ている青年。読者は病院内であることを知る。(b-2)
  • b-2のクローズアップ。(b-3)
  • 寝ている男性の目線から青年を見た角度のショット。(b-4)
  • 寝ている男性の口元のクローズアップ。ヒゲを蓄えている。口が開き、笑っているように見える。(b-5)
  • 病院棟の屋上。青年の後ろ姿。パンフォーカス。(b-6)
  • ベンチに座った青年の前に、誰かの手が現れる。何か握っているように見える。(b-7)
  • 病院棟屋上からの眺め。建物が密集しているが、高い建物はない。ここで初めて会話らしい会話が展開される。「どうですか?」「おとうさんの容態は?」ただし、この発言が誰のものなのかは、この段階ではわからない。しかしながら、b-2の壮年の男性は、青年の父親であったということを読者は理解する。(b-8)
  • 青年の顔のクローズアップ。「あ......」「親父の事知っているんですか?」(b-9)
  • 老人と思われる口元のクローズアップ。「......ええ。」(b-10)
  • ベンチに座った青年の俯瞰ショット。だから青年の表情はわからない。「......親父は手術後の経過があまり良くなくて、もうここ数日眠ったままなんですよ。」(b-11)
  • 病院棟屋上の引きのショット。医師や看護士の姿がある。ベンチに座っている青年の横に、誰かいるが、青年の吹き出し(風船)で見えない。「これでも一応感謝はしているんです。」「血の繋がりのない僕を育ててくれた訳ですから。」(b-12)
  • 病院棟屋上に蝶が一匹。青年は続ける。「こんなの不謹慎かもしれないけど、いっそのこと目覚めないほうがいいんじゃないかって気がします。」(b-13)
  • 再び青年の顔のクローズアップ。「時折、口元が笑うんですよ。そしてうわ言のように誰かの名前を呼んでいるんです。」(b-14)
  • 手前に青年、向こうに老人がベンチに座っている。いや、老人は車いすに座っているようである。顔はコマから切れている。老人の手に光る弁当箱のようなものが握られている。ここで読者は、b-7に現れた手が老人のものであったと認識する。「でもそれはきっと僕はないんだ......」「父はいつももういない誰かに想いを馳せていましたからね。(b-15)
  • 手前に老人の背中、その向こうに青年。一匹の蝶が飛んで来ていることを青年は認める。蝶にフォーカスは合っていない。(b-16)
  • その一匹の蝶が老人の禿げ上がった頭に止まる。頭のみの描写で、老人の表情を知ることはできない。(b-17)
  • 青年の顔のクローズアップ。老人の頭に蝶が止まったのを見て、微笑んでいるような表情を見せる。(b-18)
  • 再び病院棟屋上からの眺望。老人は言う。「この頃......僕もよく夢を見るんです。」「今僕が見ている景色が夢なんじゃなかろうかと思うくらいに。」「日増しに夢の現実味が増していて......」(b-19)
  • 青年の顔の正面からのクローズアップ。老人、「それでも――、」(b-20)
  • 左に青年、右に老人の引きのショット。後ろ姿で表情を知ることはできない。老人の頭上には一匹の蝶が舞っている。老人はやはり車いすに座っている。前方に少し高いマンションがある。老人、「それでも結局目が覚めればやっぱり自分。本来そういうものでしょ?」「人間生きているからには何かしら役目があるはずなんです。ただそれに気づいていないだけで」(b-21
  • 青年の右横顔のクローズアップ。目と鼻、耳以外はコマから切れている。眼孔だけをこちら側、つまり老人の方へ向け「あなた誰ですか?」と問う。(b-22)
  • 老人の左斜め後ろからのクローズアップ。表情は見えない。(b-23)
  • 今度は左側からの引き。老人の姿は青年と重なっている。(b-24)
  • 青年の「誰ですか?」という問いに老人は答えない。病院棟屋上に設置してある手すりと、その向こうに病棟が見える。老人、「......車椅子、押してもらえませんか?」青年、「...え?」(b-25)
  • 青年の正面からのクローズアップ。目と鼻のみ。老人、「...ほらそこにいる、」(b-26)
  • 会話の風船は前のコマから横断しており、「泣いている少年のところまで......」車椅子の押し手を握った青年の手のクローズアップ。(b-27)
  • 車椅子を押す青年の後ろ姿。やや引き気味。看護士や他の患者が多数いる。しかし、老人の言った「少年」は、青年と車椅子に乗った老人と重なる位置におり、読者はその存在を確認することができない。(b-28)
問いB

  • 青年とは誰か?
  • 老人とは誰か?
  • 泣いている少年とは誰か?
  • 青年と父親の関係は?
  • 老人が持っている弁当箱(のようなもの)の意味は?
  • 少年、青年、老人の関係は?


  • 借家と思われるアパート。かなり古い。(c-1)
  • 郵便受けのアップ。「小松崎」というネームプレートがある。ここで読者ははじめて登場人物のひとりである人物の名前を知ることになる。(c-2)
  • テレビ画面。男性のアナウンサーが写っているが、画面ははっきりしない。(c-3)
  • アパートの一室。テレビを見ている青年が「小松崎」であると読者は理解する。ただし、病院の屋上にいた青年とは異なる人物であることも同時に知ることになる。畳にコンビニ弁当と飲み物が置いてある。布団は敷きっぱなしだ。(c-4)
  • 小松崎の右からのクローズアップ。髪の毛を伸ばしており、後ろを縛っている。(c-5)
  • 縛っている髪の毛を解く指のクローズアップ。(c-6)
  • 台所の蛇口。(c-7)
  • 水の入ったコップの横に、処方された薬とその袋を認める。読者は小松崎が何かしらの病気を患っていることを知る。下の名前は処方された薬の袋から「航太」とわかる。(c-8)
  • 薬を飲む小松崎の口元(右横)のクローズアップ。(c-9)
  • 今度は正面から薬を飲む小松崎の腕のクローズアップ。同時に誰かの手が現れる。その手の指は、小松崎に触れようとしている。(c-10)
  • こちら、つまり「誰かの手」が伸ばされた方向を見る小松崎の引きのショット。(c-11)
  • そのまま顔にクローズアップ。読者にはその「誰かの手」が誰のものか、謎として残る。(c-12)
問いC

  • 小松崎はどういう病気なのか?またなぜその病気を患っているのか?
  • 一人暮らしのはずにも関わらず現れる「誰かの手」とは?
  • 物語のおける小松崎の役割とは?


  • 病院の外観。「フッ」「フッ」と2つの風船が重なる。(d-1)
  • 月明かりの病院の一室。さきほどの病院と同一かは判断できない。男がズボンを半分下ろし、布団に寝ている女とセックスしている。両サイドはカーテンのようなものがある。おそらく隣のベッドからのショットだろう。男の表情は月明かりの逆行で暗く、窺い知ることはできない。「フッ...」「フッ...」「フッ...」と3つの風船があるが、女は脚だけしか見えず、どういう状況なのか、読者はよくわからない。(d-2)
  • 男の口元のクローズアップ。鼻の下に汗をかいている。「フッ...」(d-3)
問いD

  • 男は誰か?またセックス相手は誰か?
  • 病室でセックスしているとはどういうことか?


  • 月明かりの一室。ただし、病室ではない。「こんばんわ。」「今夜は月が綺麗だね。」と誰かが話をしている。(e-1)
  • 多数のノートが重ねて置いてある。(e-2)
  • 何も書かれていないノートが1冊開かれており、その横にペン、もしくは万年筆が置いてある。明かりは小さなロウソクだけだ。コーヒーの入ったカップがこちらと向こうにあり、読者は2人の人物がいることを理解する。(e-3)
  • 「......さあ」「今日も話の続きを聞かせておくれ」という言っているのは、男だ。手のアップだが、髭が見える。(e-4)
  • 女性の口元のクローズアップ。鼻ははっきりとしているが、読者は成人女性というよりも、少女であると感じるだろう。髪の毛は長く、色素は薄い。男、「......どうしたんだい?」(e-5)
  • 「今日は随分お落ちつきがないじゃないか。」男は万年筆を手に取り先端はノートに接着している。(e-6)
  • 書架。ただし棚に入っているのは、すべてノートであると読者は理解する。男、「......まぁいい、時間はいくらでもあるんだ。」「たまには話をふり返ってみるのもいいかもしれないね。」(e-7)
  • 全面ベタ塗り。男、「...さぁ、」「どこまで逆のぼろうか?」(e-8)
問いE

  • 誰と誰の会話か?
  • 場所はどこか?